いつつ将棋教室

教室の風景 2025年3月4日

指し初め式

中倉 彰子

将棋界の新年恒例行事

指し初め式(さしぞめしき)は、将棋界の新年恒例行事であり、毎年1月初旬に行われます。この式典では、棋士や関係者が一堂に会し、新年の抱負を述べたり、一手ずつ指し継ぐ対局を行ったりして、将棋界の発展と繁栄を祈念します。

そんな伝統ある「指し初め式」を、私たちの教室でも新年に行いました。この特別な時間には、新しい一年のスタートを切るだけでなく、将棋を通じて所作や礼儀を学ぶ機会を作りたいという願いが込められています。子どもたちには、駒を動かすだけでなく、将棋を通じて自然に身につく礼儀や心構えを感じ取ってほしいと思っています。

まず、私と年上の生徒が盤を挟んで向かい合い、駒を丁寧に並べていきます。駒を一つひとつ置くたびに、無言の中に流れる緊張感が教室を包みます。その間、ほかの生徒たちは静かに見守り、小さな生徒たちは正座をして真剣な眼差しで見守ります。こうした所作や、静寂の中で感じ取る空気は、言葉で説明するのではなく、実際に体験してもらうことが大切だと考えています。「駒を並べる」という一見地味な作業の中にも、相手への敬意や集中力の大切さが込められていることを、生徒たちが少しでも感じ取ってくれればと願っています。

駒を並び終えると、一礼をして、いよいよ一手ずつ交代で指していきます。一人ひとりに手番が回るたびに、「今年もがんばってね」「いい手だね」などと声をかけながら進行しました。子どもたちと交わすこうした一言一言には、新年ならではの温かい交流が感じられました。

局面が少しずつ進むにつれ、特に小さい子どもたちは「次はどうしよう?」と困ったような表情を浮かべることもありましたが、「反則さえしなければ大丈夫だよ」と声をかけると、安心した様子で一手を指していました。一方で、高学年の生徒たちは、局面が進むたびに目を輝かせ、次の展開を楽しんでいました。

なお、「指し初め式」は新しい一年を迎えるための儀式であり、勝敗を決めることが目的ではありません。そのため、盤面は途中の局面で「指しかけ」の状態で終えるのが慣例です。

指し掛けの局面も興味津々

指しかけの局面を見ながら、子どもたちは「こっちが優勢だよね」「このあと、こう攻めていけば…」などと感想戦を始めました。高学年の生徒たちは今まで指された手に対し、「この銀はこちらのほうが良かったかも」と具体的な指摘を交えながら話し合っていました。こうした感想戦の時間は、将棋の実践的な学びの場であるだけでなく、子どもたち同士が互いの考え方に触れ、切磋琢磨する貴重な機会にもなっています。

このように、「指し初め式」を通じて、生徒たちは新年のスタートを切るとともに、礼儀作法を学び、みんなで感想戦をしながら貴重な時間を過ごしました。

こうした行事を通じて、生徒たちが成長していく姿を見ることは、何よりの喜びです。

マイ駒作り

この記事の執筆者中倉 彰子

株式会社いつつ代表取締役、女流棋士。女流アマ名人戦連覇後、94年高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。プロとして公式戦を戦うだけでなく、NHK杯将棋トーナメントなどテレビ番組の司会や聞き手、イベント司会などでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、育児と仕事の両立に奮起。2007年日本女子プロ将棋協会設立に参画。事業部長として、地域や子どもたちに長く親しまれるイベント作りを心がけている。子育てエッセーを地方紙7新聞に連載し、近年は将棋と知育・育児を結びつけるような活動を広く展開。2015年10月株式会社いつつを設立、代表取締役に就任。女流二段。法政大学人間環境学部卒。東京都府中市在住。@AKIKOPDG

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